Skip to content
戻る

ミニマル・ミュージックと「18人の音楽家のための音楽」

8 min. read

目次

はじめに:

最初にお断りしておくと,私は音楽の専門家ではございません。楽譜全然詳しく読めませんし,コード進行を語れるわけでもありません。それでも,ミニマルミュージックのお気に入りとして,スティーヴ・ライヒ(Steve Reich)の「18人の音楽家のための音楽(Music for 18 Musicians)」を本記事で紹介します。

この曲を最初に聴いたきっかけは…… 正確には覚えていないのですが,おそらくSpotifyのレコメンドだったと思います。Spotifyいい仕事。

それから「そこそこ好きな曲」になり,1時間で作業をしながら聴くのにちょうど良いので時々聞いていましたが,2025年10月に直接生で聞く機会に出会います。久石譲プレゼンツ MUSIC FUTURE Vol.12でした。この曲を生で聴い他ことで「そこそこ好きな曲」から,最近聴いた曲に常時入る「超好きな曲」に格上げになりました。この記事では併せて私が好きな音楽ジャンルとしてあげている「ミニマルミュージック」についても少し触れておきます。「ミニマル・ミュージックってなんだか難しそう」「同じフレーズが延々と続くだけでしょ?」── もしそう思って敬遠している人がいたら,一度でいいので騙されたと思って聴いてみてほしい。この記事はそういう,いわば布教の記事です。

そもそもミニマル・ミュージックとは?

ミニマル・ミュージック(Minimal Music)は,ごく短い音のパターンを繰り返しながら,そのパターンを少しずつ変化させていくことで曲を組み立てる音楽です。私は人から聞かれた時に,伊福部 昭の「ゴジラのテーマ」を例に挙げることがあります。

ゴジラの恐ろしさが耳から伝わってくる有名な曲ですが,この曲では「デデデン! デデデン!……」というフレーズを少しずつ変化させながら繰り返していきます。

さてそんなミニマルミュージックですが,ライヒはその代表的な作曲家のひとりで,「18人の音楽家のための音楽」は彼の代表作と名高い曲です。

ポイントは「繰り返し」と「少しずつの変化」の二つです。同じフレーズがずっと鳴っているようでいて,実は水面下でゆっくりと形を変えている。この気づかないうちに変わっている感覚こそが,この曲最大の魅力だと私は思っています。

「同じことの繰り返しなんて退屈では?」と身構える人もいるかもしれません。ところが,繰り返しがあるからこそ,ほんの変化が際立って聞こえる。音がひとつ足されたり,アクセントの位置がずれたりするだけで,変わって感じられる。近年のポップスのようにサビで盛り上がるわかりやすい展開ではなく,変化・時間の感覚を味わう音楽なのだと思います。

どんな曲?:1時間,18人,そして波のような音

ミニマルミュージックについてはさておき,この曲「18人の音楽家のための音楽」は,ヴァイオリン,チェロ,クラリネット,女声,ピアノ,マリンバ,シロフォン,ヴィブラフォンなどからなる編成で演奏される,およそ1時間の大作です。タイトルは「18人」ですが,これは最小構成の人数で,実際には18〜22人ほどで演奏されることが多いそうです。

ここからは,この曲の簡単なポイントを二つ取り上げます。

全体を貫く2つの時間軸

曲の中には,性質の異なる2つのリズムが同時に流れています。ひとつは,ピアノとマレット楽器(マリンバなど)が刻み続ける規則正しい「パルス」。これは曲の最初から最後まで途切れることなく鳴り続けます。もうひとつは,歌い手や管楽器が奏でる「呼吸のリズム」です。奏者が息を吸って,吐ききるまで音を伸ばす,つまり人間の呼吸の長さがそのまま音の長さになる。正確なパルスに対して,波のように揺らぎのあるリズムが対比していくのです。この対比が何度聞いても飽きない曲の世界を作っているのだと思います。

アーチ構造と11の和音

もうひとつが構造の話です。曲全体は,冒頭に提示され,最後にもう一度繰り返される「11の和音のサイクル」に基づいて作られています。冒頭でわずか15〜20秒ずつ鳴らされる各和音が,その後それぞれ5分ほどの小さなセクションへと引き伸ばされ,11のセクションが数珠つなぎになって1時間の曲ができあがる,という構成です。

そして各セクションの多くは,盛り上がって静まる「アーチ型(ABCDCBA)」の形をとります。中心に向かって密度が上がっていき,折り返してまた戻ってくる。この山なりのかたちが,大小さまざまなスケールで曲のあちこちに現れるのが面白いところです。難しい理論はわからなくても,「あ,いま登って,いま降りてきたな」というのは体で感じられます。

生で聴いて驚いたこと

さて実際にMUSIC FUTURE Vol.12で聴いての感想です。

一番衝撃を受けたのは,指揮者がいない状態で曲が組み上がっていくことです。この曲では「フレーズを何回繰り返す」ということを楽譜上で明確に定義していません。ではどうやって18人がセクションの切り替えを合わせているのか。答えはヴィブラフォンです。ヴィブラフォン奏者が特定のパターンを弾くこと(このコンサートでは加えてクラリネットの方が手を挙げて合図されていました)が「次に進む」という合図になっていて,それを聴いた奏者たちが次のセクションへ移っていく。私は本公演を幸運にも最前列で聴くことができ,奏者の合図でセクションが移り変わっていく様子を間近で見ることができました。

もう一つ印象に残っているのは楽器の独特な配置です。使用楽器の詳細な内訳を記すと,ヴァイオリン1,チェロ1,クラリネット2(バスクラリネット兼),女声4,ピアノ4,マリンバ3,シロフォン2,ヴィブラフォン1,マラカス2となっています。ピアノ4って…… そりゃ頻繁に演奏出来ないわけだ((( 実際に会場で見たときも,ステージ後ろにピアノが4台も揃う光景にはびっくりです。これらの楽器がステージ真ん中に対称軸を引くように並べられる光景は見た目的にも面白く,美しいです。

MUSIC FUTURE Vol.12(東京公演)の楽器配置
MUSIC FUTURE Vol.12(東京公演)の楽器配置

聴いてみてほしい

というわけで,おすすめ録音を紹介します。複数の録音が出ていますが,個人的な一押しは,イギリスのアンサンブル「Colin Currie Group」が2023年にリリースした演奏です。音楽サブスクで手に入る録音としては最も(?)直近にリリースされた録音であり対応しているサブスクであれば,Dolby Atmosで聴けます。演奏としてもテンポよくバランスの取れた綺麗な演奏だと思います。

Spotify

Apple Music

YouTude

以下のYouTubeは(録音とは別の),ドイツでのColin Currie Groupによる演奏です。

2022年にオペラシティで来日公演しているんですよね…… もっと早くこの曲に出会えていれば絶対行ったのに……

余談:20年間「楽譜がなかった」曲

最後に,この曲にまつわる面白いエピソードをひとつ。実はこの曲,長らく「完全な楽譜」が存在しませんでした。ライヒは自分のアンサンブルと一緒に稽古しながら曲を作り上げていき,各奏者は自分だけが読める簡単なメモのようなパートを頼りに,ほとんど暗譜で演奏していたそうです。そのため,オリジナルのグループ以外は誰も演奏できず,初演から20年以上ものあいだ他の団体による上演がほとんどありませんでした。現在世界中で演奏できるようになったのは,作曲家マーク・メリッツが1976年の録音を丹念に採譜し,正式なスコアを作り上げてくれたおかげです。

まとめ

「18人の音楽家のための音楽」は,ミニマル・ミュージックの入り口として本当におすすめの一曲です。パルスの上を,リズムが波のように行き交い,気づかないうちに景色が移り変わっていく── この素晴らしさを,ぜひ一度体験してみてください。

参考文献


この記事を共有する:

関連記事


Next Post
プロフィール・ブログサイトを作成しました